一回目のミスはそれほど大きく情勢に影響しない場合も多いのだが、動揺した精神状態で犯す二回目のミスは致命傷となりうる。大切なのは、冷静になって丁寧に考え直すことだ。へたに取り繕おうとすると、余計にピンチを招くことになる。
(森内俊之 永世名人)
共通テストが迫ってきました。
今回は共通テストを受ける心構えの記事です。
受験生へのエールの意味も。
でも大学受験生以外でも、例えば来年受験する高2生。
高校受験をする中3生なんかにも知っておいて欲しい。
なんならその他の学年や、保護者の方にも知っておいて欲しい
「勝つ人は何をやっているか」
というエッセンスを解説した記事です。
共テはパフォーマンスゲー
「共通テストは学力なんて測ってない。あれはただのパフォーマンスゲームだ」
と僕はいつも言ってます。
「学力を測ってない」は大袈裟だけど
例えば数学の点数が低い人が数学力が低いわけじゃない
というのは言えるでしょう。
焦ってミスする。解答欄に合わなくて余計に焦る。負の連鎖に絡め取られて20~30点ぐらい落としてしまうなんでザラにある話です。特に謎に試験時間がタイトな共テではこういう「事故」がよく起こります。
だから共テで上手くいく人は、必ずしも「学力が高い人」ではなく
プレッシャーのかかる本番で、自分の学力を落ち着いて発揮して、
解ける問題に着実に解答する振る舞い方ができる人
ということになります。
これは、実際に受験を経験した人でないとイメージしにくいかもしれません。
「試験なんだから学力を測ってるんじゃないの?」
「勉強して学力をつけたら点数も上がるんでしょ」
という気がするかもしれません。
でもこれは勝負事。スポーツとかの競技に近い性質です。
スポーツでは、強い方が勝つとは限らないですよね。
(スケールは小さくても、学校の定期テストなども同じです)
鍛えの入った一手
本番で力を発揮するマインドを説明するのに、僕はよく将棋の話をします。
将棋の世界には
「鍛えの入った一手」
と呼ばれる手があります。
「あぁ、この人劣勢だな。かなり苦しそう。お、これは鍛えの入った一手だな。強い人だなぁ」
みたいな文脈で使います。
ニュアンスが難しいですが「鍛えの入った一手」とは
焦って簡単な逆転の手を狙うのではなく、じっと耐え、負けにくい手(主に守りの手)を指すこと
です。
共テ本番。それぞれに目標点があり、それを取るためのプランがあります。
そんな中、解くべき問題が解けない。
焦ります。プランが崩れる。早くなんとかしないと。巻き返さないと。加速しないと。
そんな焦りに流されると、人は逆転の一手を狙いたがります。
「どんな解法だ?」
「どの公式を使う?」
「答えは何だ?」
「本文のどこに記述がある?」
ある一つのことで、それだけで問題が解決できるような。そんな一手。
でも世の中そんな甘くありません。
一手で逆転できる大技なんてないんです。
だから、そんな時にやるべきことは、早く問題に解答することでも、加速して巻き返しを狙うことでもなく
今より状況を悪くしないこと
です。
それを端的に表現してくれるのが「鍛えの入った一手」という言葉です。
将棋の世界は、藤井聡太さんや羽生善治さんからのほほんとしたイメージを持っている人も多いと思いますが、全然もっと血生臭い世界です。
特にプロ手前の奨励会3段リーグは、その壮絶さから「鬼の棲家(おにのすみか)」と呼ばれるほど。
年間数人しかプロになれない世界で、その限られた枠をかけて一局一局を戦います。
この一局に負けたら自分は一生プロになれない。子供のころから、全てを賭けて努力してきたことが、ほんの一手でふいになる。そういうプレッシャーの中で鍛えられた人たちは安易な逆転術なんて信じません。
劣勢なら、一手でも、一秒でも生きながらえる。
そうすれば、相手がじれてミスするかもしれない。
負けが確定する一秒前に、相手が心臓発作で死ぬかもしれない。
物騒な話をしていますが、実際にそういう心境だそうです。
そういう修羅の世界に生きる人たちが、劣勢のとき
不安や恐怖にじっと耐え、安易な希望に飛びつかず、現実と対峙して指す「負けないための一手」
これが「鍛えの入った一手」です
シビアすぎると思うかもしれませんが、すごくカッコいい言葉ですよね。
多分強いってこういうことです。
能力が高いとか、鮮やかに何かができるとか、そういうことではなく。
不安や恐怖に対峙できる本当の強さを端的に表すいい言葉だと思います。
焦った時にすること
じゃあ共テ本番で、状況が悪くなった時に指すべき「鍛えの入った一手」とは何なのか。
具体的に本番ですることを確認しましょう。
(共テ受験生でない人は読み飛ばしてもOKです)
・30秒捨てる
焦った時は、まず時間を置くこと。30秒ぐらい捨てても点数に大きな影響はありません。
いったんペンを置いて、深呼吸。
(カンニングを疑われない程度に)周囲を見渡してみましょう。
伸びをして血を巡らせ、酸素を供給するのも良いですね。
・状況確認
立て直すのは足元から。
次は状況確認です。例えば数学などでは焦ると条件を見落としたりします。
問題文を丁寧に読み、1文ずつちゃんと意味を拾って下さい。
情報をひとつずつ拾い、整理することだけに専念しましょう。
ここでは解法や解答は考えないこと。
状況確認に全神経を集中するイメージです。
・簡単な筋から
焦ると簡単なことを見落とし、自ら勝手に難しく考えて袋小路に入ってしまいます。
可能性はシンプルなところから潰していくのがセオリーです。
数学なら、定義や定理にしたがったシンプルな解法はないか。
問題文の誘導をそのまま素直に受け取って立式するとどうなるか。
簡単な数字を代入してみて、答えが得られたりしないか。
英語なら、本文のおおまかな内容は何か。
まず「×」だと断定できる選択肢はどれで、その根拠は何か。
迷っている選択肢は、どういう点で迷っているのか。
やみくもに本文を漁るのではなく、冷静に枝葉を切り捨てていき、判断すべきポイントを絞っていくイメージです。
国語・理科・社会も基本的には上と同様です。
そして何より、普段の自分の感覚を思い出して下さい。
たいていの生徒は
「塾でやる時が一番問題が解ける」
と言います。
集中とリラックスのバランス。視野。思考のテンポ。
一番良い時の状態はどんなだったでしょう?
僕と一緒に問題を解くときはどうでしたか?
のんびり、ゆったり。一文字ずつ丁寧に拾って、自然にゆるやかに答えに至る感覚をウチの生徒なら知っているはずです。
・無理なら損切り
どうしても解けなければ捨ててもOK。
多少プランから外れても、合否にはそこまで響きません。
難しい問題なら、他の受験生も解けていない可能性が高い。
割り切るなら、割り切って。
未練を残してしまうと、次の問題にも引きずります。
「この大問は最初から試験に存在しなかった」
というぐらいの割り切りを。
みんなに知ってほしいこと
ここからはおまけ。
この記事を受験生以外にも読んで欲しかったのは、この逆境の時の考え方が受験以外にも有効だからです。
共テほど「The 本番」って感じのイベントは人生でそうそうありませんが、それでも「劣勢」と呼べる場面は人生の中で何度もあります。
そういう悪い状況の時にこそ、人の心の強さが出ます。
心が弱い人は
「早くその状況を抜け出したい」
という思いが先行しすぎて、逆転の一手みたいなものを探してしまいます。
例えば成績が上がらなくて焦っている人は
「どんな参考書がいい?」
「どんな塾がいい?」
「どんな勉強法がいい?」
と単純な解決策を探そうとします。
就活で内定が出なくて焦っている人は
「どんなエントリーシートを書けばいい」
「面接でどんなことを話せばいい」
みたいな解決策を探そうとします
給料が上がらずキャリアに焦っている人は
「どんな会社に転職したらいい」
「どんな資格を取ったらいい」
みたいな解決策を探そうとします。
どんな場面であっても、不安や恐怖に負けて目先の成果だけを取りに行く人は、たいていさらに状況を悪化させて負の連鎖を生んでしまいます。
どんな場面でも、まずやるべきことは冷静に自分と向き合うこと。
冷静に状況と向き合うことです。
特に、嫌な現実。不都合な現実。解決困難に思える現実。
そういったものを正面から見据えて、受け入れることです。
今の自分はそうなんだから仕方ない。
そんな自分を、自分がつくってきたんだから仕方ない。
学業も就活も転職も、今の自分の状況を認め、受け入れた上で
「自分には何ができるのか」
「自分は何ができるようになるべきか」
「相手(試験・会社・顧客)が求めているものは何か」
を自分の頭で考え、仮説を立ててトライし続けることでしか状況は良くなりません。
そこには絶対解も特効薬も魔法の杖もなく、ただただ自分なりの「こうなんじゃないか」を何度失敗してもひたすら積み重ねることしかありません。
成功の方法なんて人それぞれだし、一番大切な部分を人任せにして成功できるほど世の中は甘くないからです。
この感覚はスポーツなどの勝負事を真剣にやったことがある人なら感覚的にわかると思います。
僕の場合は仕事もそうですし、サッカーや将棋でも体感してきたことです。
多分、何事にも共通することなんだと思います。
これは言うほど簡単なことではありません。
このメンタルマネジメントが上手くできている人は、決して不安や恐怖を感じないわけではありません。
不安や恐怖、焦りを感じてもなお、それを押し殺し、すぐに成果を求めず、一つずつ積み上げる強さと覚悟がある人です。
僕は受験を通して「勝ち方」を学んで欲しいと思っています。
その方が受験も勝てるし、その後の人生でも勝ちやすくなります
(何に勝つのか、何を勝ちとするのかはそれぞれですが)
難しいことかもしれませんが、ウチの生徒なら
「自分と向き合う」
は1年間、というか、入塾した時から、嫌になるほど経験してきたはずです。
それを乗り越えて受験日を迎えた人なら、きっとできます。
共通テストは長丁場。
その中でプラン通りにいかない場面。苦しい場面。不安と恐怖を感じる場面は必ずあります。
そんなときに、簡単に土俵を割らないで下さいね。
目標点に達するだけの学力はつけてきたはずです。
苦しいときの「鍛えの入った一手」を期待しています。