たまに
「学校で暗唱テストがあるんです💦」
と言ってくる生徒がいます。
暗唱テストはたいてい嫌われ者です。
たいていの生徒は
「こんなの覚えて意味あるんですか?💢」
なんて言ってます。
たしかに暗唱って昭和の遺物感がすごいですよね(笑)
昭和どころか、何なら寺子屋の時代から「素読」といって古典を暗唱する教育は行われていたようです。
でも、「古い=悪い」ってワケでもありません。
僕は暗唱はかなり良い学習だと思ってます。
ということで、今回は暗唱がもたらす効用と、学習のコツをちゃんと理論から解説していきます。
暗唱の効用
では、暗唱はなんの役に立つのか?
細かい話をすれば色々あるんですが、最も大きな効果は記憶の技術が高まるということです。
暗唱は、覚えるまでただ反復するみたいな脳筋なやり方では地獄を見ます。
何時間かかっても覚えられない人もいるぐらいです。
逆に言えば、現実的な時間で暗唱しようと思うと記憶の技術がどうしても必要になるということです。
しかも暗唱は記憶の技術の中でも、他の勉強に活かしやすい本質的な技術のエッセンスがたくさん詰まっています。
勉強が上手くなりたい人は、とりあえず暗唱をやってみるというのもひとつの手です。
これから暗唱のコツとセットで、記憶の技術を解説します。
是非参考にしてみて下さい。
暗唱のコツと記憶の理論
何か例があった方がわかりやすいと思うので、島崎藤村の詩の『初恋』を暗唱すると想定してみましょう。
負荷をかける
記憶が苦手な人がやりがちな過ちランキングNo.1は
負荷をかけられていない
ということです。
例えば『初恋』を覚えるなら、とりあえず1回読みます。
そして、すぐに紙を見ないで言ってみます。
「できるか!」
と思った人も多いと思います。
そりゃできません。
でも、できなくていいんです。
大事なのはやってみようとすることです。
しかも、本気で。
できないとはわかりつつも、本気で思い出してみる。
これが負荷をかけるという感覚です。
人間の脳は使う記憶だけ保存するようにできています。
使おう(思い出そう)とする、でも思い出せない。
この経験を脳に積ませることで
この記憶は使う記憶だぞ。保存する必要があるぞ。
というメッセージを脳に送るわけです。
記憶が下手な人は、暗唱に限らず英単語でも元素記号でも
ずっと見ているだけ、読んでいるだけです。
常に目の前には文章があるわけなので、自分のアタマから情報を取り出す必要はありません。
これだと負荷がアタマにかかりません。
脳はいつまで経っても「これは保存すべき記憶じゃない」と判断し続けることになります。
ちなみに、何かを見て覚えることをインプット。思い出そうとすることをアウトプットと呼ぶこともできますが、だいたいの勉強でインプットとアウトプットは 2:8 か 3:7 ぐらいの比率がベストです。
(これは他の科目の指導でも僕はよく伝えていると思います)
言ってみる→言えない→もう一度読む→言ってみる→言えない→もう一度読む→
このサイクルをひたすら繰り返す感じです。
言ってみるのフェーズで、本気で思い出そうとすればアタマに負荷がかかっている感覚がわかると思います。
ちゃんとそれを感じながら勉強することがポイントです。
以上。終了。
と言ってもいいぐらい記憶の技術として基本中の基本ですが、とはいえさすがにこれだけで覚えきるのも難しい。もう少し技術を加えてみましょう。
チャンクをつくる
いきなり全部言えるようになるのは難しいので
「まずはここまで」
というカタマリをつくってみましょう。
『初恋』なら例えば
まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
ぐらいでしょうか。
余裕がある人はこの倍ぐらいで切ってもいいかもしれません。
こうやってカタマリをつくっていくと、『初恋』は全部で8カタマリになります。
このカタマリのことをチャンクといいます。
記憶では「何を1チャンクとするか」の判断がすごく大事で、覚えるのが上手い人は自分の能力と、覚える素材に合わせて適切なチャンクを設定することができます。
(チャンク化が上手いといいます)
これは電話番号を覚えるときに無意識に使っている人も多いです。
たとえばウチの塾の電話番号は
0787776291
ですが、これを
0. 7. 8. 7. 7. 7. 6. 2. 9. 1
という10個の数字として覚える人はいないと思います。
ふつうは
078-777-6291
という3つのカタマリ(チャンク)に分けますね。
そして
「078」という1つの数字があるような感覚でそれぞれのチャンクを見るはずです。
チャンク化は、ただ分ければいいという話ではなく、この「1つという感覚」が大事です。
少し乱暴な言い方ですが
「マダアゲソメシマエガミノリンゴノモトニミエシトキ」という長い1つの言葉があるんだという感覚を持って下さい。
こうやってチャンク化して、1チャンクずつ言えるようになっていきます。
チャンクをつなぐ
チャンク化を覚えると、少し上達したような感じがします。
そんな人が陥りがちな次の罠。それは
出だしが思い出せない
というもの。
『初恋』なら
まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
このチャンクは覚えた
前にさしたる花櫛の
花ある君と思いけり
このチャンクも覚えた
繋げて言ってみようとすると
前にさしたる花櫛の
↑これが出ない!
誰かがヒントで
「前に!前に!」
とか言ってあげれば
「あっ、そうか!前にさしたる花櫛の!花ある君と思いけり!」
と続きは言っていけます。
きっかけさえあれば思い出せるのです。
そう、きっかけさえあれば。
こういうの、日常生活でもよくありますよね。
実は勉強が上手い人はこのきっかけすら意図的にコントロールしています。
ちなみにこのきっかけのことはトリガーと言います。
今回であれば1つ目のチャンクの終わりと、2つ目のチャンクの出だしが繋がっていないことが問題です。
なので、1つ目のチャンクの終わりにトリガー(次を思い出すきっかけ)を設定しようと考えます。
例えば僕なら
まだあげ染めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
この部分では林檎の木と女の子がカメラで言う引きの画角になっている感じ。
そこからカメラがズームで女の子に寄る。
すると、髪に刺した花櫛が目に入る。
こんなことを考えます。
「カメラ ヨル。カメラ ヨル。」
すると暗唱している時も、情景が自然に変化して
「あ、次は 前にさしたる花櫛 だな」
と思い出すきっかけになります。
このトリガーの設定も色んな場面で使える記憶の技術です。
特に試験となると、ただ覚えるだけでは点になりません。
適切な場面で、適切な記憶を引っ張ってくることが必要です。
だから勉強が上手い人は、例えば公式を覚える時なんかも
「とりあえずこの公式は覚えた。で、どのタイミングでこの公式を思い出せばいいんだ??」
という疑問を持つものです。
記憶はトリガーとセットという感覚がある人は、記憶だけを単独で放置はしないのです。
どんな勉強をする時でも「何をトリガーにするのか?」という発想を常に持つようにしましょう。
たくさん情報を取る
負荷をかけること
チャンク化すること
トリガーを設定すること
もうお腹いっぱいですか?
まだまだですよ。
勉強上手の工夫を舐めないで頂きたい。
「天才は何でもすぐに覚えられていいなぁ」
じゃないんです。
1秒あたりの思考量がとんでもなく多いから、短い時間で済むだけなんです。
ということで、まだまだ負荷を上げましょう。
「コトバ」には大きく分けて3つの情報があります。
「形」「音」そして「意味」です。
この3種類の情報を、できるだけ多く拾うと記憶は強力になります。
まず「形」
ぱっと見で『初恋』は4ブロックあるとわかります。
今は1つのブロックをそれぞれ2チャンクに分けている格好です。
もう少しズームで見ると、ところどころに馴染みのない漢字が使われているのがわかります。
例えば「花櫛」なんて滅多に見ることがない熟語ですから、見た目にもインパクトがありますね。
「薄紅」もそうです。りんごも漢字で「林檎」になってますね。
次に「音」
実際に声に出して読んでみると、文字数が調節されていてリズムがあることがわかります。
和歌を彷彿とさせるようなリズムです。
(リズムを感じるためにも、暗唱は少し早口で読んでみるのがオススメです)
最後に「意味」
一つひとつのシーンを思い浮かべながら、時にはWebで検索して情報を補いながら、内容をちゃんと味わいましょう。
こんな感じで「形」「音」「意味」の3観点からとにかく覚えるべき素材を眺めまわし、たくさんのことを感じ取って下さい。
これは英単語とかを覚えるときも、物理の公式を覚えるときも全部同じです。
・見た目の特徴を探す
・声に出して語感やリズムを掴む
・意味を考え、理解する
ちなみに
「形」よりも「音」の方が
「音」よりも「意味」の方が
記憶の強化に役立ちます。
これを処理水準効果といいます。
(授業でも、ファミマの看板は何百回見ても正確に思い出せないけど、ファミマの入店音はすぐにわかるでしょ、みたいな話をよくしてます)
天才のカラクリ
暗唱ひとつ取っても、たくさんの技術が使わていることがわかったと思います。
記憶力というのは突き詰めれば思考力です。
勉強が上手い人は
「なかなか覚えられないなぁ」
と思うものについて
「何周もして頑張ろう」
なんて考えません。
(最終手段としてやることはあります)
色んな観点でその情報を眺め回して、いじくって、どうにか特徴を掴もうとします。
短い時間で済んでいるのは「ラク」をしているのではありません。
エネルギーの投下先が違うだけです。反復よりも、長時間学習よりも、思考・観察・分析にエネルギーを使っているということです。時間だけで測れば短いですが、消費カロリーはむしろ多いかもしれません。
そしてそれは
「このテキストを使えばいい」
「こうやってノートを取ればいい」
といった形式的な学習法ではなく
本人の意志に基づいた技術的・感覚的な問題であることがほとんどです。
だから学習法は「知る」「わかる」ものではなく「体得する」ものです。
そのために暗唱というのはすごく有効なトレーニングのひとつです。
教室ではトレーニング素材として厳選した詩を20編用意しています。
全部を暗唱する必要はありません。
気に入った詩をいくつか覚えてみるだけでも記憶の技術はかなり向上します。
是非チャレンジしてみて下さいね!