今回はよく耳にするこの言説を検証してみたいと思います。

「文学部は就職に弱い。経営学部や理工学部の方が有利だ。」

進路を考える高校生や、子どもの学部選びを心配している保護者の方はこういった話を一度は聞いたことがあるんじゃないでしょうか。

これらの学部に限った話ではないんですが、巷には
就職に有利な学部、不利な学部がある
という言説がささやかれているようです。

結論から言うと、この言説は半分本当で、半分ハズレです。

順を追って説明します。

まず、データで見てみよう

文部科学省が毎年発表している大学卒業者の就職状況調査(2024年度版)があります。

文系の就職率:98.2% 理系の就職率:97.3%

文系の方が高い

「え、そうなの?」ってなりましたよね。

もちろん、全体を「文系・理系」でざっくり分けた数字です。
では学部別に細かく見てみるとどうか。

文・人文・外国語系の学部は約87%前後、商・経営系は約90%とたしかに差はあります。

「ほら、やっぱり人文系は低いじゃないか」

と思ったかもしれません。

でも、ここをもう少し考えてみましょう。

有利・不利ではなく志向性の違い

学部にはどんな人が集まりやすいかという傾向があります。

例えば文学部。

文学部には、

  • 中高の国語教員になりたい人
  • 研究者を目指す人
  • 文化・思想に強い関心を持つ人

が一定数います。

こうした人たちは、最初から一般企業に早期就職する」ことを第一目標にしていない場合があります。

その結果、「就職率」が低く見えることがあります。

外国語学部も同様です。

  • 海外大学院への進学
  • ワーキングホリデー
  • 国際機関志望

こうした選択肢を本気で考える学生は、国内企業への即時就職を急がないこともあります。

一方で、経営学部や理工学部はどうでしょう?

経営学部にはもともとビジネスに興味がある人が多いです。
そういう学生は就職への意識も高くなるのは当然です。

また、理工学部も専門性が直接仕事に結びつきやすい分野を選んでいる人が多く、そもそも「卒業後に専門職に就く」という明確なキャリアイメージを持っている人の割合が高い。だから就職もスムーズに見えます。
(実際のデータでも、就職先が大学での専攻と「関連がある」と答えた学生は、文系が約19%に対して理系は約48%)

このように、就職率という数字の裏には
「その学部を選ぶ学生にはどんな人が多いか」
という学生の志向性が潜んでいます。

それを無視して「〇〇学部は就職に強い/弱い」と言ってしまうのは、少し乱暴です。

企業は学部を見ているか?

ここが一番大事なポイントかもしれません。

リクルート就職みらい研究所の調査では、企業が採用の際に重視する基準の1位は「人柄」。そして「大学・大学院で身につけた専門性」は9位(23.2%)にすぎません。

これは日本の新卒採用の構造と深く関係しています。

日本のほとんどの企業は「ポテンシャル採用」という方式で新卒を採っています。
ポテンシャルとは「潜在能力」のこと。つまり「今の時点で何ができるか」ではなく、「これから伸びそうかどうか」で採用を判断するということです。入社してからOJT(実際の業務を通じた研修)でゼロから育てるのが前提なので、入社時点の専門知識はそこまで重視されない。

だから「この人と一緒に働きたいか」「地頭はどうか」「素直に学べるか」といった、学部とは関係のない部分を企業は見ているわけです。

そういう意味では、何学部を出たかよりも大学4年間で何を考え、何に取り組んだかの方がはるかに重要です。

もちろん、理工系の推薦制度や特定の専門職採用のルートは確かに存在します。この点では理系の学生の方が「競争相手が少ない特定のルート」を持っている有利さはあります。

でも「文学部だから就職できない」は、データ的にも論理的にも成り立たない話です。


さらに単純化できない理由

学部と就職の関係には、他にも多くの要素が絡みます。

  • 男女比の違い
  • 地域性
  • 大学ブランド
  • 大学院進学率
  • 資格試験志向

これらが混ざった統計を見て、

「文学部は弱い」と結論づけるのは、やや粗い分析です。

本質的な課題は「翻訳する力」にある

とはいえ、民間企業への就職を目指す際に、文学部などの学生が苦戦するケースがあるのも事実です。しかし、それは学問の内容が役に立たないからではありません。

原因は、自分の学びをビジネスの言語に「翻訳」できていないことにあります。

  • Aさん:「私は大学で、中世のフランス文学を研究しました」
  • Bさん:「私は中世フランス文学の読解を通じ、膨大な史料から共通項を見つけ出し、当時の社会背景と現代の心理を接続して分析する力を養いました」

企業が求めているのは、具体的な知識そのものよりも、「どう学んだか」というプロセスです。理系や経営学部は、そのプロセスが最初から仕事に直結しやすい形になっているだけ。文系学部であればあるほど、自分の学びを価値として抽出する「メタ認知能力」が試されるのです。

「学びの主導権」を取り戻そう

「就職に有利だから」という理由で興味のない学部を選ぶのは、自分の人生のハンドルを他人の物差しに委ねる行為です。

大事なのは、どの学部に行くかではなく、そこで培った思考プロセスを汎用的なスキルとして言語化できるかどうか。つまり、「自分なりの学び方(Learn How to Learn)」を確立できているかです。

自分の興味に従って、納得して学ぶ。 その過程で手に入れた「学びの技術」は、就職という一時の通過点だけでなく、その先の人生を切り拓く最強の武器になります。

アカデミー神戸進学会が「学び方を学ぶ」ことを最優先しているのは、まさに皆さんに、どんな環境でも通用する「本物の主体性」を手に入れてほしいと願っているからです。

語る力と語れる自分をつくること

これに勝る就活対策はありません。

これから大学を選ぶ皆さんは、どうか怖がらず、自分の興味関心に従って学部選択をして下さい。

それと同時に、「語る力」をつけられるように、受験勉強も主体性を持ってよくよく自分を観察しながら進めて見ましょう。
そうやって試行錯誤しながら努力したというプロセスそのものが、就活の時に「語れる自分」をつくっていく第一歩になります。