今回は趣向を変えてAIについての記事です。
僕は社会やキャリアについての指導にも力を入れていて、というか、それを意識せずに「受験」だけが独立してしまい結局キャリア形成が難航している人を山ほど見ているので、普段から授業の中でも社会やキャリアの話をよくしています。
中でも最近のホットトピックはやはりAIです。
特にChatGPTに代表されるような生成AIが社会にもたらす影響は超大です。
なんとなく「便利だなー」程度で使っている人も多いと思いますが、これを機にもう少し理解を深めるのも良いんじゃないかと思い、記事にしてみました。
AI関連でよく出てくる用語もカバーしているので、これを機にAIに関するニュースを自分でもチェックできるようになって欲しいなと思います。
(現代文の試験でAIネタが出される可能性はけっこうあって、その意味では現代文対策にもなっているかもしれません)
この記事では
①AI開発のおおまかな流れ
②社会への影響と人間がやるべきこと
③塾講師/経営者は何を考えているのか
という3部構成にしました。
一番知って、考えて欲しいのは②なんですが、そのためには①を知っておく必要があります。
また、一般論だけ伝えても自分のキャリアに当てはめて考えるのが難しい人もいると思うので、キャリアプランの一例として僕が今考えていることも紹介してみました。
記事中では以下のキーワードを解説しています。
・AI
・機械学習
・ディープラーニング(深層学習)
・大規模言語モデル(LLM)
・生成AI
・プロンプト
・リスキリング
・オートメーション(自動化)
・バイアス(偏り)
・フェイク生成(ディープフェイク)
「あー聞いたことあるけど、意味はわかんないな」
と思った方は是非読んでみて下さいね。
AI開発のざっくりとした流れ
そもそもAIとは
Artificial intelligence(人工知能)の略です。
読んで字のごとく「知能」というものを「人工的に」再現できないか?
というところがスタート地点です。
知能を持った人間っぽく振る舞うコンピューターが作りたい!
みたいなイメージですね。
1950年ぐらいから開発がスタートしたらしいですが、最初は人間がプログラムとしてルールを打ち込みまくっていました。
「もし〇〇と聞かれたら、△△と答えろ」
みたいな感じのルールをひたすら入力しまくるというパワープレーです。
でも知能ってそんな単純なもんじゃないので、当然上手くいきません。
そこで2000年ぐらいに発想の転換が起こり、機械学習という概念が普及します。
(正確には機械学習という概念自体は1950年代からあったそうです。ただWebの発達により実用化したという観点で2000年頃としました)
例を示して解説しましょう。
この頃のAI開発の主流は「画像認識」です。
例えば犬の写真と猫の写真をAIに見せて
「これは犬。これは猫」とAIが判定できればOKという感じ。
初期のAIは人間がルールを打ち込まないといけないので、この世の全ての犬と猫の写真を入力して「これは犬だ。これは猫だ。」と教えないといけません。教えた写真についてのみ、AIは答えることができます。
1000枚の写真を教えても、1001枚目の写真を答えることはできません。
これが機械学習になると教え方を少し変えます。
「犬と猫を見分けるには、耳・鼻・髭に注目してください。犬の耳はこんな特徴があって…」
といった具合で、判断の仕方を教えているような感じです。実際の判断はAIがやります。
これによって教えていない1001枚目の写真を答えることができるようになりました。
といってもまだまだ精度が高くありません。
そこで、さらなる技術革新として2012年に現れたのがディープラーニング(深層学習)です。
当時行われていた画像認識AIのコンテスト<ILSVRC 2012>において、AlexNetというAIが圧倒的な差をつけて優勝します。
「なんだコイツは!?どういう仕組みなんだ!?」
とザワザワなったみたいです。
このAlexNetに使用された技術がディープラーニングです。
従来の機械学習では人間が判断の仕方(特徴)を教えていましたが、ディープラーニングではその特徴すらAIが自分で学習します。
人間が教えるのは、それぞれの写真について「これは犬だ」「これは猫だ」という事実のみ。
ここからAI自身が「犬だと教えられた写真にはどのような共通点があるか」を自分で考えてその特徴を見出します。
このディープラーニングという技術がめちゃくちゃ画期的で、AIの性能を飛躍的に上げました。
ちなみに、将棋AIがプロ棋士に勝ち始めたのもこのディープラーニングを搭載したAIからです。
今話題の生成AIの基盤になっているのもこの技術です。
ここまでで人間が行っていた思考・判断といった要素を少しずつAIに委譲していっている様子がわかると思います。
こういう流れを押さえておくことが今のAIを理解するのに大切です。
ここまでの話をより深く知りたい人はこの本がオススメです。
(貸し出し用もあるよ)
そしていよいよ、ChatGPTが登場します。
これまで見てきたように、AIにはデータが必要です。
画像認識AIなら犬や猫の写真が、将棋AIなら棋譜がそれにあたります。
データの数が多ければ多いほど、精度の高いAIになります。
そしてChatGPTとはネット上にある膨大な文章(このブログのような)をデータとして学習し、言語を出力できるAIということになります。ネット上には大量の文章がありますから、当然信じられないぐらいの精度になります。実際に自然な会話をしているように言語を生み出せるので生成AIと言われています。
そしてさらに、ネット上には文章だけじゃなく画像や音声もありますよね。これらをデータとして学習した画像生成AIや音声生成AIなども出てきました。結果として文章+画像+音声といった複数の情報を扱えるマルチモーダルAIに進化しました。
ChatGPTが発表されたのが2022年11月30日。とんでもない速度で進化していることがわかると思います。
さて、ここまでAIの発展をざっくり見てきました。
これらを踏まえて、AIがこれからの社会をどう変えていくかを考えていきましょう。
AIは社会にどう影響するか?
いよいよ本題です。
生成AIが社会をどう変えて、そんなAIと共存するために人間には何が必要かという話です。
まずは5つのキーワードをチェックしながら、ざっくり見てみましょう。
🧠 1. プロンプト(prompt)
生成AIは「言われたことに応える」仕組みで動いています。
たとえば、「5分で読める面白い本を教えて」と入力すれば、それに応じた回答が返ってきます。
このときの「入力する文」のことをプロンプトといいます。
つまり、AIを使いこなす力=うまく伝える力です。
どんなに優れたAIがいても、指示が曖昧だとピントのずれた答えしか返ってきません。
将来、どんな仕事に就くとしても「AIとやり取りするスキル」は必須になります。
🔁 2. リスキリング(Reskilling)
AIがいろんな作業をできるようになった結果、社会では「今ある仕事が減って、新しい仕事が生まれる」という変化が起きています。
そのとき大切になるのがリスキリング=学び直しです。
今までのスキルにこだわらず、新しい技術や考え方を身につけ直すことで、次のチャンスに備えることができます。
高校生のうちから「変化に合わせて学び続ける」という姿勢を持つことが、これからのキャリア形成ではとても重要になります。
⚙️ 3. オートメーション(自動化)
AIが「人間の代わりに作業をする」ことをオートメーション(自動化)と呼びます。
たとえば:
- 文章を要約する
- データを整理する
- 簡単なプログラムを組む など
こうした作業は、これまで人間が時間をかけてやっていたことですが、今ではAIが一瞬でこなせるようになっています。
つまり、「作業ができる」だけでは評価されにくくなるということ。
AIがやってくれること以外で、自分にしかできない価値を出すことが求められます。
⚠️ 4. バイアス(偏り)
AIは人間のデータをもとに学習しています。
つまり、人間社会にある「偏見」や「差別」も、知らないうちに取り込んでしまうことがあります。
このような偏りのことをバイアスといいます。
たとえば、就職活動でAIが「女性より男性を推薦する」ような結果を出してしまった例もあります。
AIを正しく使うためには、「AIが出した答え=正解」と思い込まずに、自分で問い直す力が必要です。
🎭 5. フェイク生成(ディープフェイク)
最近では、AIが本物そっくりな偽動画や音声を作ることもできるようになりました。これをディープフェイクといいます。
たとえば、有名人が言ってもいないことを話しているような動画が作られることもあります。
このようなフェイク情報が広まると、社会の信頼や判断が大きくゆらぎます。
極端な話をすると、裁判の証拠となる画像や音声をAIが作り出してしまうかもしれません。
だからこそ、これからの時代は「何を信じるか、どう見抜くか」という力がとても大切になります。
こんな感じで、仕事も社会のあり方も大きく変わっていくことになります。
これだけ大きな変化が確定している中で、学力にしても学歴にしてもスキルにしても
・「今」良いとされていること
・「今」必要とされていること
に躍起なっても仕方ありません。
それよりも必要なのは
・変化に強い人材になっておくこと
です。
AIがこれだけのことをできる時代に人間が勉強する意味は何なのか?
勉強を通して何を身につけたいのか?
こういうことを常に考えて欲しいと思います。
このシリーズがオススメ。続編も含めてめちゃくちゃ話題になった1冊なので見たことある人もいるかもしれません。
塾経営者は何を考えているのか
ここからは僕の頭の中を紹介します。
塾の世界にもAIがどんどん導入されています。
ただでさえ離職率がトップクラスに高く、社会的地位もあまり高くない業界ですから、今の時点でも人材不足は深刻です。だから大手塾の多くは「人」の力ではなくシステムの力でサービス力を高める方法にシフトしていて、AIも当然その中に入ってきます。
そんな中で
AIができることを適切に見極め、活用しながら、AIにできないことを提供する
これを僕がどのように実現しようとしているかのお話です。
1.観察と分析で負けない
生徒の学習を観察して
「なぜ、できないのか?」
を分析するのはウチの一番の強みです。
AIによる学力診断&アドバイスをするツールもありますが、AIにはデータが必須。
逆に言えばデータ化されない情報には弱いということ。
テストの問題の正誤や模試の偏差値などはデータ化されますが、それらは生徒の学力を表すほんの一部でしかありません。
例えば視線の動きや手元の迷いなどは生徒の理解状況をテスト結果より鮮明に伝えてくれますし、ノートやワークの書き込みから思考プロセスも読み取れます。
また、学力形成には性格や価値観、思考のクセが「勉強」以上に影響します。
ということで、これらを観察・分析し、受験と学習理論の両方に精通した人間がアドバイスするという形式には可能性を感じています。
2.科目横断的にバランスを取る
大学受験において「だいたいどの科目でも大丈夫」というのも珍しいスタイルです。
これは動画授業が流行した時に
「これからは科目を教える講師は生きていけないな」
という予測のもとに、
数学とか英語とかより、そもそも「勉強」というものが得意
という自分の性質を最大限に活かすために考えたスタイルです。
これは何が良いかと言うと、受験勉強全体のバランスが取りやすいということです。
科目ごとに指導者がバラバラだと、講師はみんな自分の科目で結果を出したいので全体バランスを無視して学習プランを指示/誘導します。それが全科目分集まったときには生徒のキャパを軽くオーバーしてしまって、結果として生徒はこなすだけの勉強になるという弊害は塾業界ではあるあるです。
(僕もティーチングをやってた時は他科目の講師とよく喧嘩しました)
これも1に近いですが、生徒の状況をヒアリングし、学校からの負荷を把握し、性格や認知特性に合わせて時期によって学習プランを調整し続けるという作業は、目を向けるべき情報が多岐に渡りすぎてAIには難しいのではと予想しています。
3.推薦入試/進路相談
最近は推薦入試による進学が増えています。
学力試験とは別に志望理由書・面接・小論文などの対策が必要で、これは僕も最近力を入れているところ。
また、そもそもどんな推薦・一般含めてどんな入試方式を選択するのか、志望学部はどこにするのかなどの進路相談は、ただの戦略だけでなくキャリア(生き方)のお話とセットです。
これらを深掘っていくためには、今の時点での生徒の希望を聞くだけでは足りません。
「この入試方式はこういう人には不利だけど、大丈夫?」
「君の進路のイメージにはこういう視点が欠けていると思うけど、どう?」
など、受験のこと、社会のことについて適切に情報を伝えながら問いかける力も必要になります。
こんな感じです。
生徒がAIとやり取りしておおまかな学習プランを定めて、参考書や動画を使って学習する。
僕はそこに技術的・専門的なアドバイスを加えていく、みたいな形になるのかなと予想しています。
基本的に大手の塾は属人化しない、システムによる運営に舵を切っています。
そんな中での僕の戦略は生徒数に制限があるし、教室展開も難しいけど、技術と専門性が高いというスタイルです。
いかがでしたか?
こういった戦略をもとに、僕は普段から心理学を勉強したり、各科目の教材研究をしたり、入試情報を集めたりしています。限られた「努力」というリソースを何に配分するかは戦略にかかってきます。そして戦略は社会やテクノロジーについての理解にかかってきます。
もちろん、生徒の皆さんはまだまだ将来について決まっていないことが多いと思います。
でも、そういう時期から社会の変化には敏感でいましょう。
「もし自分が塾を経営していたらどんな戦略にするかな?」
「もし自分がコンビニを経営していたらどうかな?」
などと妄想してみるのも楽しいと思います。
意外とそういう遊びから自分に合った職業が見つかったりもするものです。
ただぼーっと生きてるだけでは何もわからないままです。
これを機にニュースに注目したり、自分のキャリアを考えたりしてみて下さい。