学習法を教えるというのはウチの塾のコンセプトのひとつでもありますし、僕自身の指導の強みでもあります。
ただ、学習法を教えるという言葉は結構誤解されやすい言葉でもあります。

僕が教えている学習法というのは、この教材を使えばいいとか、こんなふうにノートを取ればいいとか、そういう表面的なものではなく、アタマの中についてのことです。

今回はこのアタマの中というものをテーマに僕が生徒の学習の何を見て、どんなアドバイスをしているのかを解説していきたいと思います。

まずは算数の問題から

まずはアタマの中を見るということの意味と、その重要性を理解して頂くためにカンタンな算数の問題を使ってみたいと思います。

シンプルな引き算の問題なんですが、ここで考えてみたいのは

この問題を練習すると引き算の力がつくのか?

ということです。

引き算の問題なんだから、引き算の力がつくんじゃないの?

というのが一般的な意見かもしれません。でも本当にそうでしょうか?
それを調べるために、この問題を解いている時のアタマの中を考えてみましょう。

例えばこんなふうに筆算をして解いた人(Aさんとします)はどうでしょうか?
この計算をするとき、Aさんはアタマの中で

3-1=2
14-9=5
2-2=0

という計算をしたと考えられます(ここも厳密には色々可能性がありますが)。
これらは全て引き算の計算ですから、この問題を解くことでAさんは引き算の力がつくということになります。

では、次のように計算した人(Bさんとします)はどうでしょうか?

ここまではっきり式として計算していなくても、

34-29?
あぁ、29に5を足すと34になるなー。
じゃあ答えは5だなー。

ぐらいの考えで答える人は少なくありません。
ちなみに僕もこの問題はそうやって解くと思います。

この方法を採った人は引き算の問題を解いていながら、アタマの中では足し算をしているということになります。
つまり引く(数や量を減らす)という力はつきません。
だってやってないんだから。

腕立て伏せをして太ももの筋肉がつくことはないように、勉強でも学習中に使っていない力がつくことはありません。

ここで重要なのは、今回の引き算の問題を解いているけど、足し算の力が鍛えられているという例のように、どんな問題(教材)を使うかだけでは何が鍛えられているのかわからないということです。

だから僕は生徒の学習中には生徒の手元に注目し、その生徒がどういう解き方をしているのかを観察したり、時には口頭で「どうやって解いた?」と尋ねたりします。

その時の解き方が鍛えたい力と合致していればそれで良いし、合致していなければそのことを生徒に伝えたり、まだ年齢的に幼い場合はこちらから学習内容を調整したりします。

見た目では区別がつかないこと

先ほどの引き算の例では、生徒の手元を見ていれば筆算をしているかどうかなどのヒントはある程度得ることができます。

ですが中学以上の勉強になってくると解法の型のようなものがある程度固定されてしまい、見た目ではアタマの中の情報が得られないケースが多くなります。

例えば次のような中3数学の問題をみてみましょう。

これを解くと

こんなふうになります。
ポイントは最後の答えを出す瞬間で、この時には

こんなふうに2通りのアタマの中が想定できます。
左側の意識で解いている人と、右側の意識で解いている人では応用問題への対応力に雲泥の差が出てきます。

見た目は同じでもアタマの中が違う
しかも本人も模範解答を見たら自分と全く同じ式が書いてあるワケですから、自分のアタマの中が最適ではないということに気づきにくいものです。

英単語10回書きは正しい勉強法か?

スポーツにおけるうさぎ跳びと同じくらいの歴史を持っていると思われるのが英単語10回書きという勉強法です。
僕も中学生の時に学校の宿題として出された記憶がありますし、今も出されている生徒をよく見ます。

生徒にインタビューしてみると面白くて

「こんなの意味あるんですか?」
「これやって覚えられた試しがないんですけど」

という生徒もいるし

「自分は何回も書いた方が覚えやすいです」

という生徒もいます。ちなみに僕は前者でした。

ここでも注目すべきなのは英単語を10回書くという見た目としての動作ではなく、書いている時にアタマの中はどうなっているかです。

10回書きの無意味性を主張する生徒のほとんどは書いている途中に

「あーめんどくせー」
「あと6回。あと5回。あと4回…」
「これ終わったら友達にLINEしよー」

みたいなことを考えながら書いてます。つまり英単語のことなんて微塵も考えていません。
やってないことは鍛えられないので、当然覚えられません。

逆に10書きを有効な方法だと主張する生徒の多くは

「unhappyってunとhappyに分けられるな」
「ここのthは確か ス って発音だったな」
「preって頭につく単語多いな」

みたいに英単語をよく観察していて、発音も意識していて、つまりは書いている時のアタマの中での思考量が多くなっています。

このように10回書きの学習効果は10回書きという動作が決めているのではなく、それをしている時のアタマの中が決めているのです。
アタマの中で何が起こっているかに注目せずに見た目としての10回書きの有効性を議論してもあまり意味はありません。

(ちなみに僕は英単語10回書きという勉強法は無意味とは思いませんが、アタマの中をコントロールする力に長けた人以外は成功させにくい勉強法だとは思っています。)

全ての学習に言えること

これまで3つの事例を取り上げてアタマの中に着目することの重要性を説いてみました。
これは全ての学習について言えることで
例えば

英文を読む時のアタマの中は?
歴史の教科書を覚える時のアタマの中は?
物理の問題を考える時のアタマの中は?

などなど、どんな学習をする時にも学習成果はアタマの中が決めています

ですから勉強が上手くなりたい人は自分が勉強している時にアタマの中がどうなっているのかを常に観察するクセをつけましょう。

これは専門的にはメタ認知能力といって、この能力の高低が学業成績に大きく関係するということが広く知られています。

どんな指導をしているのか?

最後にちょこっとだけ、僕がしている学習法の指導がどういったものなのかを簡単にご紹介したいと思います。

繰り返し述べてきたように、学習というのは使うテキストとかページとか解く問題とかでは決まりません。

だから僕は指導時にはできるだけ生徒の手元(書いている内容とペンの動き)を見て

「あー、こういう考え方で解こうとしているのかな?」
「この部分の意味が分からずに飛ばしてしまったから、こういう答えになってるんだろうな」

みたいなことを推測しています。
さらに

「どうやって考えた??」

という質問をめちゃくちゃします。
もちろん言語化が得意な生徒ばかりではないので、時には

(見本として同じ問題を解いてみせながら)
「問題文のここを見てこういう発想をするよ」
「この段階でここまでの可能性を予測しているよ」
「ただ計算しているだけじゃなくて、こんなことをイメージしているよ」

といったことを解説しながら

「さっき自分で解いた時のアタマの中と比べてどうだった??」

という尋ね方をすることもあります。

とにかく生徒のアタマの中で何が起こったのかを把握するというところに莫大なエネルギーを使っています。

これがわかってしまえばあとは一直線。

「君は勉強する時にアタマの中で○○を意識してないよね??次から○○を意識してみて」

みたいな感じでアタマの中の修正をリクエストします。

条件にもよりますが、アタマの中を修正するだけでそれまで多くの時間勉強しても伸びなかった科目が途端に伸びるようになったりもします。

ホームページに掲載している生徒の声の中にこんな声がありました。

(この塾を選んだきっかけは?)
数学が伸び悩んでいたことがきっかけです。計算や理屈はわかっていても、応用問題で回答を組み立てるのが苦手でした。数学の単なる知識だけでなく、もっと根本的な考え方の部分を教えてもらえると思いました。

(この塾の指導の良いところは?)
紙面に書いた解答だけでなく、解く過程での手の動かし方やメモの仕方なども見て指導してもらえるところです。表面的にしかわかっていないところを指摘してもらえるのが目から鱗でした。

寄せてくれたこの声は「アタマの中の修正をリクエストされるという経験が今までなくて新鮮だった」みたいな意味で書いてくれているのだと思います。

この生徒はすごく頑張り屋さんで素直で誠実で、受験に必要な計算力や解法知識はしっかりしたものがありました。今まで勉強を一生懸命頑張ってきたことが手元からよく伝わってきました。
だから僕が少しアタマの中について伝えただけでものすごい勢いで吸収・成長していったのが印象に残っています。

もちろん生徒に貢献できればどんな形であれ嬉しいんですが、こうやって自分が研究と研鑽を重ねてきた領域で評価してもらえると指導者冥利に尽きます。

せっかくホームページをリニューアルして色んなことが発信できるようになったので、アタマの中を見るということについて具体例を挙げながらどんどん発信していきたいと思います。