勉強が苦手な生徒ほど、やたらとキレイなノートをつくる

これは定番中の定番パターンで、実は僕も学生時代に一時期この罠に陥ったことがあります。
センスも画力もないので、カラフルでイラストだらけなノートは作れませんでしたが、1文字ずつ丁寧に、配置などを工夫して、まるで一つの造形作品を作るようにノートを取っていたことを覚えています。

少し乱暴な言い方ですが、丁寧すぎるノートを作っていると学力はつかない可能性が高いです。

というより、苦手な科目ほど「丁寧なノート」になっていくと言った方が良いかもしれません。

これは一体どういうことか?
どうすればいいのか?
今回はその原因と対処法を解説していきます。

ノートにこだわりすぎる生徒のアタマの中

なぜノートにこだわりすぎると学力がつかないのか?

それは意識の焦点が「内容の理解」や「記憶」といった勉強の本質的なところに当たっていないからです。

例えば教科書の

603年に聖徳太子が冠位十二階を制定した。冠位十二階とは…

という部分を学習するとしましょう。
ノートにこだわりすぎる生徒は「聖徳太子」や「冠位十二階」みたいな、いかにもキーワードっぽい言葉を装飾することばかり考えてしまいます。

「何色にしよう?」
「色ペンで囲ってみようかな」
「重要!とか書いておこうかな」

みたいな。装飾にばかり注意がいくせいで肝心の内容についてほとんど思考を働かせることがありません
本来なら

「冠位十二階ってどんな制度かな?」
「何のためにそんな制度を作ったのかな?」
「603年って書いてあるけど、これは何時代にあたるんだっけ?」

こんな感じで、その内容を理解するようなアタマの中になっているか

「これは小学校の時に覚えたからさすがにテストでも答えられるだろう」
「いや、漢字で書けって言われたら怪しいか?ちゃんと覚えているかな?」
「年号までは覚えられていなかったな」

みたいに、自分の記憶状態を観察するようなアタマの中になっていなければいけません。

なぜノートつくりにこだわるのか?

ノートづくりにこだわる生徒の大半は、成果に反映されていません。

それでも辞めない人が多いです。
これはなぜでしょうか?

それはノートづくりが

「この科目を勉強したくない」
「難しいことを考えたくない」

という、勉強に対する拒絶の表れだからです。

「ノートにこだわりすぎる」という現象は、主に苦手科目で起こります。
僕の場合は当時苦手だった化学で起こりました。

苦手科目には自信が持てません。
勉強してもできるようになるイメージが持てません
(これを専門的には 自己効力感が低い と表現します)

それどころか、せっかく勉強しても低い点数を取って嫌な思いをする
そんなネガティブなイメージが湧いてくるぐらいです。

これは実は大変なストレスです。
ただ単に「嫌だ」というレベルではありません。
自分の努力が否定されるのは人格否定されることに近いストレスです。

人間はストレスの原因のことは本能的に意識から排除しようとします。

しかし一方で「勉強すべきだ」「できるようになるべきだ」と理性的には判断しています。

勉強に向かおうとする理性と、それを意識から排除したい本能
この二つがせめぎ合った状態が「ノートづくりにこだわる」です。

ノートにこだわれば、表面的には頑張っていることになり、理性を満足させることができます。
ですが肝心の内容の理解や記憶には焦点が当たらないので、嫌なことを考えなくて済むのです。

向き合わなきゃいけないけど、向き合いたくない

そんな心理状態から、「ノートづくりに力を入れる」という行為にすがっている状態とも言えます。
(極端な言い方ではあります)

では、どうすればこの状態から脱することができるでしょうか?

これには

・学習スキルからアプローチする
・メンタルからアプローチする

という2つの方法があります。
(組み合わせて使うことも多いです)

学習スキルからアプローチする場合

学習スキルからアプローチするというのは

学習効果の高い学習法を実現し、力をつける。
力がつくから自己効力感が回復し、より勉強に向き合うようになる。

という現象を目指したアプローチです。
ここでの学習法は、「学習者が理解・記憶といった学習効果に意識の焦点を当てる」がコンセプトのものであればなんでも良いです。いくつか例を挙げると

「問題を解く」をセットにする

「教科書を読んでノートづくりをする」
これは知識を頭に入れるためのインプットのフェーズです。
ここだけでその日の学習を終えてしまうのではなく、該当単元の問題をワークなどで解くようにすると、学習効果に焦点が当たりやすくなります。

(最もインスタントな方法。あまりに問題が解けないと逆効果になる場合も)

書く量を削ることを目指す

僕はこの手法をよくやります。生徒に対して
「できるだけ書く量を少なくして。シンプルに、コンパクトにまとめよう」
とリクエストします。これは生徒の中での「良いノート」の定義をズラすという意味です。

ノートにこだわる生徒は

「たくさんの情報が書かれていて、見栄え良く装飾されたノートが良いノートだ」

という暗黙の了解があります。それを

「文字数が少なく、シンプルで簡潔にまとまっているノートが良いノートだ」

という認識にズラすような対応をします。

ノートの情報を増やすことは簡単です。
教科書や資料集を見ればいくらでも情報は書いてあり、それを色ペンで装飾すればするほどにノートの内容は増えていきます。何も考えず写して飾る量を増やせば良いだけです。

一方で情報を減らすことには思考が必要です。
何が重要なのか?削れる情報はどこか?この情報は本当に必要なのか?
要約問題を多くの生徒が苦手とするように、原文よりも短くするには思考が必要です。

「良いノートをつくる」という生徒のモチベーションをそのまま利用して、力の方向だけがより正しい方を向くように調整するイメージです。

こんな風に生徒の頑張る方向を少しズラすだけで効果を激増させることが僕の追求する「美しい指導」です。上手くいかないことも多いですけどね。百発百中でこんなことができると良いんですが…。

口頭で問いかける

「ザ・コーチング」という手法。問いかけこそがコーチングの本質です。

「どんなことが書かれてたか、説明できる?」
「今ノートにまとめたことをテストしたら、何%ぐらい正答できると思う?」
「明日テストするとしたら、どれくらい覚えていられると思う?」

考えられる問いかけは無限にありますが、生徒の意識の焦点が思考・理解・記憶に向くような問いかけをします。

(問いかけさえ間違えなければ、ほぼ強制的に生徒の思考を正しい方に誘導できます。ただし生徒が自学で再現できる可能性は低いので、あくまできっかけづくりです)

こんな感じです。

この学習スキルにアプローチする方法はストレートで手っ取り早いのですが、そもそも「考えたくない」という心理状態に陥っている生徒や、地の記憶力や理解力が高くない生徒に対しては上手くいかないことも多いです。

そういった生徒に対しては、メンタルからアプローチする方法を採ることになります。

メンタルからアプローチする場合

メンタルからアプローチするというのは

勉強に対するプレッシャーを緩和したり、自己効力感を回復させることで
生徒がより主体的に勉強に向き合えるようになり、結果としてより良い学習法を実現でき、力がつく

という現象を目指したアプローチです。
具体的な関わり方をいくつか紹介すると

プレッシャーを和らげる

「できなくていい」
「不正解でいい」

という言葉を多くかけ、勉強に対するプレッシャーを緩和します。
特にテストや模試などでは高い得点を取らなければいけないという強迫観念を抱いている生徒も多いです。
そういった生徒に対しては

「全体の得点はあまり気にせずに、自分が勉強した単元でどれだけ得点できるかに注目しよう」
「周りと比べるのではなく、前回の自分より成長したと言えるポイントをつくろう」

というふうに、着目するポイントをズラすことでプレッシャーを緩和します。

勉強に対する恐怖心が緩和されることによって、少しずつ主体的に勉強に向き合えるようになってきます。

スモールステップで達成感を味わう

模試や定期テストのような大きくて遠い目標に対して努力をするのは大変なことです。
そこで成果が出て達成感や自信を得られれば良いですが、そうならないから困っているわけで…

そこで

・テキストの章ごとにチェックテストをし、目標点数を超えることを目指す
・週に1回過去問を解いてみて、目標点数を超えることを目指す

のように、イメージしやすい目先の目標(短期目標)を設定し、それを一つずつクリアしていくことで自己効力感を回復していくのも有効な方法です。

生徒の状況に合わせてステップの刻み方を変えて、その生徒にとって適度な努力で適度な成果が出るように調整すればどんな状況の生徒に対しても使えるアプローチになります。

得意教科を伸ばす

苦手科目に対する意識改善をする前に、得意科目を目いっぱい伸ばしてしまうのも有効な方法です。

というよりこれはどんな生徒にもオススメで、基本的に得意教科を伸ばす勉強っていうのは常にやった方が良いです。

得意科目はただ点数が高いだけではなく、上手に勉強できている可能性が高い科目です。

そうすると、壁にぶつかった(難しい問題に出会った/成績が伸び悩んだ などの)ときにも乗り越えられる可能性が高いです。

そこで自信をつけていくことで、苦手科目にも向き合いやすくなります。

また、苦手科目と得意科目の勉強の仕方を比べてみるのも重要です。
やたらとノートにこだわる人に対して

「得意科目でもそれをするか?」

という観点で観察してみると、ほとんどのケースでしていません

「得意科目はどんな感じで勉強してる?」
「その時にアタマの中ではどんなことを考えてる?」

ここを起点に考えると苦手科目もどんなふうに勉強すれば良いかがわかりやすくなります。

そのためにも得意科目を目いっぱい伸ばしてメンタル的にも学習スキル的にも感覚を覚えてしまうことは有効な解説策のひとつです。

まとめ

ここまでノートづくりにこだわるケースと、その対処法についてまとめてみました。
対処法についてはほんの一部で、本当はもっとその生徒の学習を観察できればもう少し具体的なアドバイスが可能です。

ひとつ注意して頂きたいのは、この記事ではノートづくりの全てを否定したいわけではないということです。

マインドマップなどが代表例ですが、学習に良い効果をもたらすノートのつくり方もあります。
ただそれは

・書き方にルールを設ける
・書く内容にルールを設ける
・色にルールを設ける

などによって、ノートづくりの際にアタマに適切な負荷をかけるようなルール設定ができており、生徒自身が主体的にそれに取り組んでいる場合です。

今回取り上げたのはそういったルールは全く設定せずに、結果としての出来栄えだけにこだわったノートづくりをしてしまう生徒のケースです。

この見分けも含めてですが、勉強は

・何をやっているか?

だけでは良し悪しを判断できないケースがたくさんあります。

当会では授業内容を「自由」とすることで普段の勉強を生徒に実践してもらい、その様子を見たり、質問したりすることで生徒のアタマの中を観察しています。

生徒が勉強に対して主体性を持ち、学習スキルを磨くことで進学後や社会に出てからも勉強を続けることができるように。
「再現性のある学習」
をテーマに学習を研究しています。

もしこれを読んで下さったのが生徒(学習者)の人なら、まず自分の勉強に主体性を持って
・どんなやり方をどれくらいやれば、どんな成果が出たのか
を絶えず観察するクセをつけて下さい。

保護者の方なら、勉強の目に見えるところ(成績/ページ数/勉強時間)などを見る前に
「今日は何ができるようになった?」
「このテストでは何ができて何ができなかった?」

など、生徒が自分の勉強の中身に目を向けるような問いかけをしてあげて下さい。

アタマの中に目を向けられるようになることが、学力をつける大切な第一歩です。