この記事は
「中小企業診断士の勉強やってみた」の第2回
その中の
企業経営理論の第2回
です。
(この連載の主旨はこちらをご覧ください。)
出題傾向を掴む
企業経営理論という科目の全体像の確認を終え、次に行ったのが
どんな問題が出題されるのか、その傾向を掴む
ということ。もう少し踏み込んで言えば
試験中は何を見て何を連想・思考しなければいけないのか?
を知るということです。
これについてはカンタンな歴史の知識を例に解説します。
今から中学レベルの歴史の知識をひとつ提示しますので、まずはそれを学習してみて下さい。
その後に提示した知識について5つの問題を出します。
頑張って答えてみて下さい。
こたえ
問題1 十七条の憲法
問題2 十七条の憲法
問題3 道徳的規範を中心とする法令
問題4 聖徳太子が制定したとされる官僚や貴族に対する道徳的規範を中心とする法令
問題5 誤 (農民の ではなく官僚や貴族に向けたもの)
いかがだったでしょうか?
同じ知識に対しても、色々な設問の形があるということがおわかり頂けたでしょうか?
そして、それぞれの問題について
・どの部分をどれぐらいの強さで記憶しなければいけないか
・どの向きに記憶を想起しなければいけないか
の設定が異なります。
※記憶の強さについては弱い記憶=ぼんやり覚える、強い記憶=はっきり覚える、ぐらいで認識して下さい。
例えば問題1の場合、十七条の憲法の内容は問題文でほぼ説明されているので、内容については弱い記憶(見たら思い出せる程度)でいけますし、解答である「十七条の憲法」という用語についても選択式になっているため、こちらも弱い記憶で大丈夫だとわかります。
また憲法の内容が問題文として出題され、用語を答える問題であることから、
内容⇒用語
の向きに記憶を想起しなければいけないことがわかります。
イメージとしてはこんな感じです。
では問題2はどうでしょうか?
ほとんど問題1と同じですが、回答が記述式になっているため「十七条の憲法」という用語については自力で想起し、漢字まで書けなければいけないと想定すると強い記憶を作っておく必要があります。
問題3は問題1を逆にしたようなつくりです。
回答が選択式なので強い記憶は必要ありませんが、第1問とは想起の向きが逆になっています。
問題4は問題2を逆にしたかたち。
想起の向きが逆になっていて(用語を見て内容を答える)、答えるべき内容の方は記述式なので強い記憶を作っておかなくてはいけません。
では問題5はどうでしょうか?
ちょっと難しいですが、資格試験の設問(選択肢)のつくりとしてはよくあるヤツという感じです。
正しい文章の一部を誤ったフレーズに置き換えているような形で、この問題に答えるためには
こんなふうに特定の箇所だけ強い記憶にしておかなければいけません。
(もちろん問題を完全に予知することはできないので、これは理想論なのですが)
こんなふうに、設問というのはそのつくりによって要求する記憶の強さや想起の向きがあります。
過去問を分析する中でどんな知識をどんな強さと向きで記憶しないといけないかという感覚を掴むのが、今回の目論見です。
ちなみに、随分偉そうに長々と書きましたが、勉強が上手い人は中学生や高校生でもこういうことを感覚的にやっている場合が多いです。
あの先生のテストは選択式の問題ばっかりだから、選択肢を見て思い出せるぐらいの覚え方で十分なんです。
みたいな感じです。
(使いこなせているかは別です。得意科目は感覚的にできているけど、苦手科目ではできていないという人は多いです)
過去問を解いてみる
さて、目的を説明するだけで既に長くなってしまいましたが、実際にやってみます。
試用するのはもちろん過去問です。
過去の実際の出題を分析することで、どんな記憶を準備していけば良いのかを特定していきます。
(だから、大学受験生などは早めに過去問を分析するのは良いことです。ただし、分析可能なだけの最低限の学力レベルは必要です)
では、実際の過去問題を2問ほど取り上げて、僕がどんなことを考えて分析していたかを紹介してみます。
この記事を読む多くの人は、中小企業診断士とか企業経営理論とか知ったこっちゃないと思うんですが、だからこそこの勉強をしている時の僕の状態に近いはずです。
自分がもしこの資格を受けるとしたらどう考えるか?何をしようとするか?
をイメージしながら読んでもらえると、学習技術を磨くよいトレーニングになると思いますので、是非やってみて下さい。
令和2年度 第2問
【問題】
H.I.アンゾフは、経営戦略の考察に当たって、戦略的意志決定、管理的意思決定、業務的意思決定の3つのカテゴリーを基軸として、企業における意思決定を論じている。
それぞれの意思決定に関する記述として、最も適切なものはどれか?
まず重要なのはわからないなりに考えてみるということです。
「わかる」は「わかろうとする」からしか生まれません。
どんな問題を前にしても諦めず、わずかなヒントを頼りにわかろうとする姿勢が学力をつくります。
この問題で、僕は当然H.I.アンゾフなんて知りません。
でもどうやらその人が、戦略的意思決定・管理的意思決定・業務的意思決定とかなんとか言っていたらしいと。
これら3つの言葉の「戦略」「管理」「業務」の部分に注目して僕は
戦略:社長とか役員とか、エライ人たちが会社の戦略について会議している様子
管理:部長や課長といった中間管理職の人たちが自分の部署の管理について考えている様子
業務:現場の人たちが自分たちの業務について話している様子
みたいなのをなんとなくイメージしました。
その上で選択肢を見てみると
ア
管理的意思決定とは、最大の成果を引き出すための経営資源の組織化に関わる意思決定である。
ここでも
経営資源:経営の資源だから、会社が持ってるお金とか人材とか設備とかのことかな?
みたいに考えています。
とはいえこの選択肢は抽象的でよくわからない…。
イ
企業の多角化戦略は、管理的意思決定における主要な決定事項の1つである。
違和感だらけです。僕は「管理的意思決定」という言葉を部長や課長ぐらいの人たちがする意思決定だと予想していますから、企業の戦略をそのカテゴリーの人たちがやるのには違和感があります。だから×
ウ
戦略的意思決定の対象となる問題は、事業活動を通じて生じることから、トップ・マネジメントが意識的に関心を寄 せなくても、自ら明らかになる。
「いや、関心寄せろよ!」って思うので×
エ
戦略的意思決定は、企業における資源配分を中心としており、固定資産や機械設備など企業内部の資産に対する投資の意思決定と同じである。
やたら内部感を強調しているように感じます。会社全体の戦略は競合他社など、外部の影響も大きく受けそうなので嫌な感じがします。
また、受験慣れしている人は「〇〇は△△と同じ」という表現にはちょっと危険な匂いを感じるかもしれません。こういうつくりの選択肢が正答になることはあまりない印象(あくまで印象)。よって×
ということで、消去法により僕は答えを「ア」として、正解。
こんな感じで、言葉の意味を推測していけば答えられる問題があると知ったのも過去問の収穫。
もう1問
令和2年度 第1問
【問題】
VRIOフレームワークにおける競争優位に関する記述として、最も適切なものはどれか。
「VRIOフレームワークってなに…?」
ってなりました。何かの頭文字を繋げた感があるVRIOという言葉が意味推測不可能なので、これは知識ゼロで解くのは不可能かなと判断。
今回の目的は出題傾向を分析して学習法を探ることなので、無理はせずにVRIOフレームワークをGoogleで調べてみました。ざっくりまとめると
Value(経済的な価値)
Rareness(希少性)
Imitability(模倣困難性)
Organization(組織)
という4つの条件を満たす経営資源は企業の持続的な競争優位の源泉になる。
ということだそうです。
この問題については象徴的な選択肢を一つだけ紹介すると
イ
経営陣のチームワークや従業員同士の人間関係などの組織属性が経済価値を生み、希少性があり、かつ他の企業による模倣が困難な場合、この組織属性は企業の一時的な競争優位の源泉となる。
正しくVRIOを説明してるっぽい用語を散りばめている中に「一時的な」という表記があります。
VRIOの説明ではここは「持続的な」となっていましたから、ニュアンスが異なります。
だからこの選択肢は×
という問題なのですが、この誤答選択肢の作り方は冒頭で僕が十七条の憲法という用語で提示した問題5に似ていることがおわかり頂けるでしょうか?
「へぇ~。そういうことする」
って言いたくなるような意地悪な選択肢ですが、出題されてるんだから仕方ないですね。
ここで、例えばVRIOフレームワークを勉強する時の記憶の強さの感じを掴んでいきます。
少なくともVIROについては各アルファベットの意味だけでなく「持続的な競争優位の源泉」というところまで覚えておく必要があるとわかります。
こんな感じで過去問を
①とりあえず全力で解いてみる
②問題のつくりを分析する
(要求している知識や、誤答選択肢の作り方など)
という流れで10問程度やってみた。というのが今回の学習レポートになります。
出題傾向を肌感覚で掴む
僕はいつも主張しているのですが、学習は技術です。
種も仕掛けもある手品と同じ。
練習すれば誰にでもできると思いますが、見かけだけ手品師の真似をして指をパチンと鳴らしてみてもトランプが上に上がってきたりはしないように、表面的なやり方やわかりやすいマニュアルのようなものを求めてしまうと学習は上手くいかないと思います。
(このサービスを買えばいいとか、このスクールに通えばいいとかも同じです)
あくまで技術ですから、知って、試行錯誤して、練習して磨いていくものです。
この過去問を分析するという作業自体にもマニュアルはありません。
そこから得られる学習法にもマニュアルはありません。
あくまで
「ふむふむ。こんな感じで選択肢をつくってくるんだな」
「この知識のこんな細かいところまで出題するのか」
みたいなことを感覚的に掴むことが重要です。
ここまでで所要時間は1.5時間程度。
ここから学習法を検討して、実行していくフェーズに入ります。