今回は「アタマの容量を上手に使う」というテーマで高校数学Ⅱの学習事例を紹介します。

こちらです。
数学をやってない人には「なんのこっちゃ」と思われるでしょうが、とりあえずグラフを正しく描く問題だと認識して頂ければ十分です。

写真には3つのグラフが描かれていますが、一番右が正解のグラフです。

これを描くために、この生徒は左と中央のグラフを先に描くことにした

これが今回のポイントです。

アタマには容量がある

この生徒の素晴らしさを説明するために、事前に知っておいて頂くべき知識があります。
それは

アタマには容量がある

ということです。ワーキングメモリとか認知資源とか言ったりします。
(厳密にはワーキングメモリと認知資源は別物です)

例えば映画を見ながら人と会話するのは至難の業です。
映画に集中しすぎると、相手の話を聞けなくなるし、
人の話に集中しすぎると、映画のストーリーがわからなくなります。

今回の「容量」という言葉は、こういった「意識を割く限界」や「思考の限界」を指す言葉だと思って下さい。

アタマには容量には個人差があると言われています。
こう聞くと
「容量が大きい方が有利」
と思われるかもしれません。

確かにそうなんですが、実は容量の大小よりも
自分のアタマの容量をどれだけ上手く使えるか
の方が重要だ

ということがわかっています。

これは料理に喩えるなら
広いキッチンを持っているよりも、狭いキッチンでスペースを上手に使えるかの方が大事
ということです。

数学はアタマの容量を上手く使うゲーム

数学は勉強を進めれば進めるほどに、ややこしくなります。
言い換えれば、アタマの容量を圧迫してくるようになるということです。

小学校レベルの計算を暗算でできる人でも
中学校レベルの問題は書かないとできない。
高校レベルの問題は書いてもパニックになることがある。

これは1つの問題が要求する思考量がだんだん増えていくからです。
スマホで重いデータ(重いアプリ)を起動しているような感じです。

こうなってくると、数学的な理解力と同じくらいに、自分のアタマの容量を上手に使う技術が重要になってきます。

アタマの容量を上手に使う技術

今回のノートを再掲します。

この生徒はアタマの容量を上手に使う技術を2つ使っています。

・ステップ分解すること
・可視化すること

です。

ステップ分解

この問題は発展レベルの問題です。
そこで、この生徒はイキナリ発展レベルの問題に答えを出すことを目指すのではなく、自分が安全に解ける基本問題から少しずつ形を変えていくことを選びました。

y=sinθ

y=sin2θ

y=sin2(θ-π/6)

式で書くとこんな感じです。
式で書いても現役生以外の方はさっぱりだと思いますが、式が少しずつ複雑になっている点に注目して下さい。

こうやって、自分が解ける問題からステップを設けて目指す問題に近づけていくことで、一度にアタマに大きな負荷をかけずに(つまり混乱せずに)正解に至ることができています。

可視化する

ステップ分解するだけでも十分に効果はあるのですが、この生徒はさらに各ステップのグラフを丁寧に描くことを選んでいます。

こうすることで、グラフを想像するという負荷をアタマから取り除くことができます。

負荷が減ったアタマは

「自分が描いた基本形と、この問題が要求するグラフは、どこがどう違うか?」

という本質的なところに意識を集中させることができます。

実は、02 中学数学で紹介した生徒も、同じ技術を使っています。

丁寧にグラフが描いてあり、式・座標・長さなども書き込まれていることがわかります。
これもアタマで想像するとか覚えておくという負荷を取り除いて、問題の解法を考えることにアタマの容量を集中させる技術であり、この生徒が成長したポイントでもあります。

自分で判断できたすごさ

今回の高校数学の生徒に話を戻すと、僕は指導の中でこの技術を紹介することがあります。
ですが、この単元の中で、この生徒にはそれを言ってませんでした。

あくまで本人が自分で発想し、実行した工夫です。

これは本当に本当にすごいことです。

「こういう問題ではステップ分解するといいよ。途中のグラフもちゃんと描くんだよ」

という指導/アドバイスを受けた生徒なら、できてもおかしくないでしょう。

でも、そうではなく、この工夫自体を自分で思いつき、行動に移した。
そこに本当に大きな価値があります。

これを自力で発想しようとすると、問題を見た時に

「ん、なんか複雑そうだな。ちょっと考えてみるか。…………いや、やっぱり混乱してきた。」
「y=sin2θから描いてみようかな。いや、それもちょっと自信ないな」
「一番簡単なy=sinθから始めよう」

こんな感じの思考が必要です。
ここで重要なのは、自分のアタマの状態をよく観察できているということです。

自分のアタマを観察することをメタ認知といいます。

教育関係者なら誰でも知ってるレベルの超有名な言葉で、このメタ認知能力が学力に大きく影響していることがわかっています。

なぜメタ認知能力が学力に影響するのか、わかりやすい事例が今回だと思います。

自分のアタマの中の状態を把握できているから、混乱を回避するような手段を講じることができる。

まさに狭いキッチンスペースを有効活用した結果です。

これは実は仕事においても重要で、ミスが少ない人や何かの作業手順を身につけるのが早い人はメタ認知能力が高い人が多いです。

まとめ

今回のポイントをまとめておきます。

・アタマには容量がある(ワーキングメモリ/認知資源)
・容量を上手に使う技術が大事
・ステップ分解や可視化によってアタマへの負荷を取り除くことができる
・メタ認知能力が高ければ、自分のアタマへの負荷を感じ取れる
・メタ認知による自分の感覚に従って負荷を下げる工夫を生み出せれば最高

アタマの容量、アタマへの負荷という考え方はどんな科目を勉強していても応用できます。
特に共通テストのように処理能力が要求されるタイプの試験では、科目に関する知識と同じくらい、アタマの容量を上手く使う技術が大事になります。
(共通テストで上手くいくタイプは感覚的にこれができている人が多い)

慣れていない人は、まずは勉強中に自分のアタマにかかる負荷を感じてみるところからスタートしてみましょう。